ジブリの絵職人・男賀和雄展を見て「5」

-アニメの背景画なのに、一作品として見られる描写力のすごさ-
 ジブリの絵職人・男賀和雄展の展示構成は次のようになっていた。
第1展示「第1章 背景:テレビから映画へ」
第2展示「第2章 投影:ジブリ作品に想いを映す」
第3展示「第3章 反映:映画を離れて」
 男賀和雄さんは秋田県大仙市(旧太田町)出身で、高校時代の三年間をここ角館で過ごされたようで、男賀さんたっての願いで、この地での開催となったようだ。他には東京都現代美術館(東京)、松坂屋美術館(名古屋)、札幌芸術の森美術館(札幌)、角館町平福記念美術館に続いて開催される愛媛県美術館(愛媛)と比較的集客力の望める大きな都市で国内巡回展が開催されていることを思えば、男賀さんの郷里の人たちに見て欲しいという優しい思いや、男賀和雄展実行委員会関係者の皆さんのご努力には敬意を表したいと強く思った。おかげさまで、秋田の地にいながらにして感動的な素晴らしい絵画展を見ることができた。
 さて、この展示会の作品はどれもが素晴らしいのだが、私は第2展示のスタジオジブリ作品の一連が圧巻だと思った。およそ1時間かけて展示作品の一つひとつを見て歩いた。最近は老眼ぎみで、メガネをはずし顔を近づけて見るとよく見えるので、絵によっては20cmくらいの至近距離で見たり、2、3m離れて見たりした。
 
 絵の見かたは人によって千差万別だろう。アニメ映画のどのシーンの背景画だったかなと思って見る人もいれば、絵そのものを見る人もいる。娘のように私がゆっくり一巡する間に好きな絵を中心に三巡する人もいる。いずれも、その人なりの見かたで良いのだろうと思う。
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※男賀和雄展の入場券、パンフレット、展示図録集などである。
 展示されているもののなかで、私が最も興味深く見ることができたものは、男賀和雄さんのアトリエを再現しているコーナーである。係の方にお願いして1枚だけフラッシュをたかずに撮らせていただいた(会場内はフォトスポット以外は撮影禁止になっているので)。参考までに男賀和雄展示図録集(定価2800円)を購入すれば255ページに本物のアトリエが撮影されており、見ることができる。
 
 私「すごいなぁ。ここには男賀さんの絵の秘密がいっぱい詰まってるよ。アレはポスターカラーじゃないか」
 
 娘「あ、ほんとだ」
 
 私「ポスターカラー1本で、これだけの世界を描き上げるんだよ。すごいなぁ、やはり神技だなぁ」
 
 娘「お父さん、あれを見て」
 
 振り向くと、すぐ隣に
 
 
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※男賀和雄さんのアトリエを再現しているコーナー。
 すぐ隣には絵を描く姿や行程がビデオ上映されている。
  
 
  絵を描く姿やその行程がビデオ上映されている。(時間はおよそ20分程度)
  
私「見て、あのスピード感。絵を描くのも色の調合も早い早い」
娘「私達の次元の問題じゃないよ、これは」
私「逆なんだ。まわりから描いて行くんだ。色を調合しながら薄い色から濃い色へ。細部はあとなんだ」
再びアトリエの再現コーナーを見ながら(同じ場所で両方見られるので)
私「きれいだな、あの写真はご自分で撮られたものなんだろうな。一応写真を見ながら再現して行くんだね。それにしても、洞察力やスケッチは並はずれた技量の持ち主なんだろうね」
娘「見ても、あんなふうには描けないよ」
私「そうだよねぇ。ところでさ、男賀さんは絵を描くときに、1点1点の作品として描いてはいないと思うよ。見たでしょ、青空の中の白い雲の描き方を」
娘「うん」
私「すごく荒い描き方をしている。絵に顔を近づけて見たら筆先のけば立ちまではっきりと見える。でもね、2、3メートル離れて見ると、それがちゃんとバランスのよい絵になっているんだよねぇ」
 
ジブリの絵職人! なるほど副題の意味がよく分かったよ。彼は絵を描く職人なんだ。
  
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※会場内のフォトスポット「となりのトトロ」の前にて。
 
 秋田県仙北市角館町の平福記念美術館で開催された「ジブリの絵職人・男賀和雄展・トトロの森を描いた人」は久々に私に感銘を与えてくれた素晴らしいアニメーション背景美術展であった。
 
 男賀和雄さんの絵には、生まれ育った秋田県の自然や郷土の原風景がぎっしり詰まっている。それを私たちが大好きな名作アニメ作品「となりのトトロ」(1988年)や「もののけ姫」(1997年)の映像のなかで名シーンとして数多く残して下さっている。
 
 初めて見る絵なのに、何故か懐かしかったり、胸がきゅんと締めつけられるような不思議なノスタルジック感がそこにはある。「となりのトトロ」の夜の雨のバス停のシーンが印象的に思えるのは、子供の頃に似たような風景を見たり、同じような経験をどこかでしているからかもしれない。私の子供達が大好きな「となりのトトロ」、一緒に何度も見ているうちにおとなの私が子供達以上に好きになったわけは、昭和30年代に少年だった自分たちの姿を、作品の中のどこかに見いだしているからかもしれない。
 
 男賀和雄さんの絵には透き通った優しさがある。かつては日本国中、いたるところにあった日本の原風景、里山の自然を草木を四季を、緻密な筆さばきと見事な技量で表現している。
 
 私たちが日々見慣れているまだ比較的里山の風景が残っている秋田県の自然や風景を、男賀和雄さんの絵筆によって名作の多いジブリ作品の中で見ることができたことは、本当にしあわせなことであると思う。
 
 スタジオジブリの天才、宮崎駿監督と秀才、男賀和雄美術監督の融合が名作アニメ「となりのトトロ」の誕生につながっていることが、この美術展を見ることによってとてもよく理解できた。
 
 男賀和雄さんの今後のさらなる活躍を期待いたしております。
 
 

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