日本映画切手と撮影現場の思い出(9) その2

あれは本当に不思議な、ポッカリと穴があいたような、撮影の合間の空白時間だった。
ふと見ると、陸中花輪駅プラットホーム待合室の、改札口から一番遠く離れた長ベンチに寅さんが一人ポツンと座っているのが見えた。さっきまでごったがえしていたマスコミ取材陣は誰もおらず、本当に一人でポツンと座っていたのだ。
話しをしてみたい。私はとっさに思った。あとはスクリーンで見続けた憧れの大スター俳優渥美清さん(寅さん)のそばに行く勇気があるか、どうか、だけである。
そう、私は行ったのである。・・・こんなことってあるのかなぁ。まわりには誰もおらず、本当に寅さんと私の二人きりだった。私は勇気を出して声をかけてみた。
「あのう、写真を1枚撮らせていただいてもいいですか?」
スタッフが呼びに来たのかと思ったのか、一瞬キリッとした表情になったが、そうではないと思った瞬間、うなずきながら「オッ、いいよ」と言ってくれた。
すごいと思ったことは、きちんと身を整えるとスッとポーズをとってくれたことだ。
それがブログの冒頭でご紹介した寅さんのあの写真である。
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私が撮ったご存知フーテンの寅こと車寅次郎。
寅さんか、渥美清さんか、ふっと分からなくなる瞬間が何度かあったが、一身同体なんだよね。
渥美さん以外に寅さんを演じられる人はいないんだ。
さらに驚いたことがある。緊張している私に、話しかけてきたのは逆に渥美さんのほうからだった。
「いいカメラ持ってるね」
「はい。ミノルタの一眼レフです。きれいに撮れますよ」
「腕がいいんだね」とひやかすように言った。
「いえ、カメラだと思います」すっかり緊張している私。
「ふだんは何やってるの?」と渥美さん。
「私は呉服屋をやっています」
「若旦那か?」
「販売の腕が悪いのでバカ旦那です」寅さん相手にバカな冗談を言っている。
「ふーん、それで山岳会に入って活躍なさってる。そしてきょう出て下さった」
ウワァー、感激だった。山岳会の格好をしている私を見て、さっきのシーンにエキストラで出ていたことを覚えていてくれたのだ。
「山岳会というのは大変なんでしょうねぇ、大きな遭難とかあって。お友達で誰かそんなめにあった方はありますか?」
(アー、この口調。寅さんの喋り口調に似ている。いや、違うよ。本人だよ、本人。なんて贅沢な瞬間なんだ。)
「いえ、私達が登るのはこのへんの山だけです。遭難した友達はいません」
「このへんの山というと?」
「地元、鹿角では八幡平ですね。近隣では八甲田山。岩木山や岩手山は富士山に似た形のきれな山です。早池峰山は高山植物がすばらしいですよ」
「あ、そう。・・・きょうは何時から来てたの?」
「えーと、朝の8時半頃だったかなあ」
「そう。大変だったね。きょうは(出てくれて)ありがとう」
ああ、きちんとした礼儀正しい人なんだなあ。最後に渥美さんは握手をしてくれた。大きく、やわらかく、そしてあったかい手だった。
(寅さんのツーショット写真はあとでかけつけてくれた鹿角市山岳会の田中君が撮ってくれたものです)
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最初のような緊張した感じがなくなると、寅さん(渥美清さん)はこんなにもいい笑顔をしてくれた。
最高のひとときだった。
私は緊張がとけて、ボケ顔なのが笑える。
「写真掲載:(C)おだぎり通信出版事業部」

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日本映画切手と撮影現場の思い出(9) その2 への2件のフィードバック

  1. えどや@田中さん のコメント:

    懐かしいシリーズ 本当に懐かしいです…
    なんだか今考えと夢のようです
    本当にあの寅さんと一緒に映画に出たのか今でも不思議です
    いまこうしてブログに掲載された画像を拝見していますと
    その事実を確認しながらも改めて凄いことだと実感です
    たしか私も寅さんとツーショットありましたよね
    よろしければ見せていただければ嬉しいです
    その時は私のブログに作者名記載の上リンクさせてもらえればと思います
    よろしくお願いいたします!

  2. 呑兵衛あな のコメント:

    はじめまして。
    NM:呑兵衛あな と申します。
    鹿角出身で、現在は鎌倉に住む還暦間近の爺です。
    「男はつらいよ寅次郎恋愛塾」が鹿角だ撮影された時のネタを探しておりましたが、やっと接触できました。
    http://10.pro.tok2.com/~nonnbei/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=34&forum=10&post_id=76#forumpost76
    これからもお邪魔させていただきますので、よろしくお願いします。

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